「韓国」京釜セマウル号にイソウロウ （全３部) 第３部　ソウルへの家路

「死の航海」は残り半分、ソウルへの帰路が待っています。 ↑午後の東大邱駅。天気もすっかり良くなりました 東大邱駅の風景 東大邱駅は慶尚道北部の鉄道の要衝。大田と並んでKTXの全ての列車が停車します。 橋上駅舎スタイルの駅はKTX開業を機にガラス張りの立派な駅舎を増築、人口250万人の大都市の玄関口として今日も多くの人が利用します。 我々は乗務員宿舎へ 運転を終えた2人の機関士さんは駅舎4階にある乗務員宿舎へと向かいます。次の乗務は18時19分発のソウル行きセマウル号。2時間半ほど休息します。   宿舎の風景 宿舎は4畳ほどの広さのオンドル部屋が合宿所のように並びます。仮眠をする人は押入れの布団を自分で敷くスタイル。モチロンJRのような自動起床装置ではないですが、受付で出勤時間を管理されていますので、時間が来ても退室が無ければ呼びに(起しに)来てもらえるそうです。 休息する部屋は決まっていますが、ある一室でソウルの乗務員さん達が集まり談笑していましたのでそこに身を寄せます☆ ソウルの乗務事務所が韓国鉄道最大と言えど、ここ大邱ではアウェイ(？)なため、ソウルの機関士さん同士、疲れも通り越して大変盛り上がります。休息後はセマウル号、無窮花号、貨物列車、回送列車とそれぞれがソウルに向けて様々な列車に乗務して行きます。

屋上へ行こう！

庁舎4階は屋上と通じており、駅はもとより大邱の風景が見渡せます。

屋上からの風景

屋上から見た風景。東大邱の機関区や街の風景が広がります。

行き交う列車を眺めて

屋上で行き交う列車を眺めます。交通の要だけに結構ひっきりなしに列車がやって来ますので、何時間居ても飽きません(*^^*)

従業員食堂へ

庁舎を一回りして食堂に入ります。5時過ぎだと言うのにかなり賑わっています。

今日のメニュー

今日はキムチ、もやしのゴマ和え(ナムル)、加えていわしの煮つけがつきます。 (右下)　ギユンさんはサイドメニューとして豆腐チゲを振舞ってくれました♪ 「こういう寒い日には辛〜い汁物に限るね〜」

食後、出勤を待つ

食事も終えて再び「ソウル部屋(？)」へ。出勤まであと1時間少々、体を十分に休ませます。

(おまけ)　大邱に集う列車たち

Ｋｏｒａｉｌでも少数とされる車両は大邱を中心に多く見られます。 (上段)　7000号「ボンゴ」(左)と「セマウル格下げ」旧特専客車(右)。旧特専客車は大邱〜馬山の都市間無窮花号の運用に入っており、時折ボンゴがその先頭に立ちます。首都圏でなかなか見なくなったボンゴは現在京釜線の他、大邱線、東海南部線、慶全線でも活躍しています。 (中段)　無窮花号の気動車が走るのも大邱〜馬山間。CDC改造(格上げ)の新生「RDC」と元祖ムクゲ動車NDC(右)。 無窮花号用NDCは現在1編成しかなく、RDCの増備によりその行く末が危ぶまれる貴重な車両となっています。 (下段)　大邱地下鉄の車両。左が2号線、右が1号線。悲惨な放火事件で知られた大邱地下鉄ですが、この事件を教訓とし、日本を含めた世界中の地下鉄で防火や非常設備の強化が行われました。 事件後、大邱地下鉄の努力により徐々に信頼も回復され、今日も多くの利用者が地下鉄を利用します。

そして日は暮れる

やがて東大邱駅も日没を迎えます。

夕暮れの東大邱駅

夕暮れになって駅は賑わいを見せてきました。ソウルや釜山に帰る者、近郊の街への退勤客と様々な人が集います。 (左下)　TRGDの情報パネル。大邱地区の公共交通の乗換えや時間の検索が出来ます。 (右下)　東大邱の駅前には3つの高速バスターミナルがあり、ひっきりなしに高速バスが発着します。ソウルならセマウル号とも所要時間に大差は無く、運賃も安い上、ソウル江南地区、仁川、議政府方面などにダイレクトに到着できる高速バスは人気が高く、ソウル〜大邱間は6社のバス会社が20分ヘッドで運行します。鉄道駅同様、この時間帯のバスターミナルは活気を見せます。

18：05　出勤

列車到着15分前の18時過ぎ、2名の機関士さんはホームに向かいます。

18時17分　セマウル号　1028列車に乗り込む

夕方になり冷え込んだホームで待っているとリゾート地、海雲台からのセマウル号1028列車が定時で入線して来ました。先頭車は現代精工の特室格下げ、260号・新塗色です。

運転室に乗り込む

釜山の機関士さんと引継ぎを行い、列車に乗り込みます。 「オレは足が長いんだよっと！」 少しカメラを意識したギユン機関士は重たい乗務カバンを抱えて軽々と運転室に入ってゆきます。 これから約4時間に渡り、来た道を戻る乗務が始まります。

1028列車　出発待機

最初にハンドルを握るのは。相棒の正機関士さん。

	←進行方向
	1号車	2号車	3号車	4号車	5号車	6号車	7号車	8号車
←　ソウル	260	642	823	554	346	440	347	148
	半室動力	特室	食堂					半室動力
	現代PMC							大宇PMC
1028列車（セマウル号） 東海南部・釜田・伽[ イ耶]・京釜線経由 　速　度　種　別　　クブル/DHC　(急乙：平均速度80 編成2M6T) 海雲台（16：35）　→　ソウル（22：03）

18時19分　1028列車　東大邱出発

程なく出発合図があり、セマウル1028列車はソウルに向けて旅立ちます。 「さようなら、東大邱駅、またいつの日か(^^)/~~」

京釜線を北上する

列車は少し走って大邱駅(5,6番)に停車。夜の慶尚道に繰り出します。大邱北分岐(9番)でKTX線路と別れると京釜既存線に進路をとります。

京釜街道を爆走

高層マンションの灯りを遠くに見ながら列車はソウルに向けて走ります。

亀尾駅　〜　金泉を目指して

列車は亀尾駅(6番)に定時到着、順調に走ります。

金泉駅接近

遠くの明かりが近づいてきたらいよいよ金泉の街に入ります。街灯の燈る街の風景、鉄橋の雰囲気、韓国にいるのを忘れてしまいそうな夜の風景です☆

19：08　金泉着

列車は定刻で金泉駅に到着しました。 夜の構内にエンジンのアイドリングと案内放送の声が響き渡ります。

金泉発車　〜　夜の秋風嶺へ挑む

金泉駅を後にした列車。灯りが減り、暗い中をフルノッチで走ります。いよいよ秋風嶺の峠です。

秋風嶺の登り坂

秋風嶺の峠道を登るにつれて線路が白くなってきました。唸るエンジン音と風を切る鼻先の音が悲鳴のように聞こえます。 下り線を走るのは8200号電機牽引の無窮花号。客室の明かりが薄く雪のかぶった築堤を青く照らします。

秋風嶺　〜　下り坂へ

列車は無事に峠を登り切り、秋風嶺駅(左上)を通過。ブレーキを掛けながら下り坂を目一杯に疾走します。 (右上)　助手席のギユン機関士。「吹雪も止んでよかったよかった」

車内の様子

ソウルに向かう車内。ゆったりした時間が流れます。 (下段)　食事時間の食堂車。この日は全てのテーブルが埋まる盛況ぶりです。

夜の線路を黙々と

4灯のヘッドライトで闇を照らしてセマウル号は北上を続けます。

セマウルは行く

酷寒の山道、闇夜の谷間に轟音を響かせてセマウル号は走ります。

19時37分　永同到着

秋風嶺から忠清道に入った列車は忠清道最初の停車駅、永同駅に到着(1〜4番)します。1分の停車の後、定刻で出発、再び闇夜の山道になります。

19：56　大田南分岐通過

列車は高速線と合流、大田駅を目指します。

沃川　〜　大田駅

沃川駅(1番)を通過した列車は10数分で大田駅(9番)に到着します。

20時9分　セマウル1028列車　大田駅到着

定刻の20時9分、秋風嶺の峠を走りぬいた列車はほぼ中間点、大田駅に到着しました。

大田駅停車中

大田駅からはリュウ・ギユン機関士がハンドルを握ります。 定刻の20時11分、戸閉め確認！ギユン機関士はバックミラーを見ながらゆっくりと列車を動かします。 「後部良好〜！大田発20時11分〜♪」

大田を後にする

大田駅を出た列車はソウルへの旅程を再開させます。20時過ぎの大田駅、19時台にソウルを出た多くのKTXと行き違います。

大田操車場通過

列車は大田操車場を通過し、京釜既存線へと踏み出します。 (3番)　最近普及しつつある電光式の方向指示器。通常は向かう路線をハングル表記しますが、場内などでは矢印で方向指示するタイプもあります。

雪が増してきた

懐徳駅を過ぎると急に雪が大降りになって来ました。ライトに照らされた雪が視界を惑わせます。

新灘津　〜　鳥致院

大雪の中を走り列車は新灘津に到着(3番)。列車は再び吹雪の中を走り、鳥致院(6番)を通過。雪の京釜線を疾走します。この時間になると貨物列車ともよくすれ違います。

ホワイトアウト！

大雪の中、すれ違う貨物列車が線路に積もった雪を巻き上げてゆきます。列車のライトが自ら反射して前方の視界はしばらくゼロになります。危険な状況に我々の列車も速度を落として対応します。

雪の中を走る

天安手前では大雪による踏切の誤作動で徐行区間が発生。そのため先行の列車も遅れているようで、信号機は減速・注意の現示を繰り返しています。 大田から吹雪の鉄路を走ること50分、雪は小康状態になります。列車は5分遅れの21時1分、天安駅(9番)に到着します。

21時2分　天安発車

天安駅に到着したセマウル号。ギユン機関士は停車時間の間に通過時刻の再確認をします。 「5分延着だけど、ソウルまで66分で走破という少し余裕の有る急乙ダイヤ(平均速度80km/h)だからうまくやれば取り戻せそうだ。かつての特乙ダイヤ(平均速度100km/h)の時代は天安→ソウルを2駅停車(水原・永登浦)61分で走らなければならなかったからね〜」 京釜街道のプロフェッショナル、ギユン機関士は加速する列車の前方に目をやります。

天安　〜　水原

列車は5分遅れのままで天安を出発。複々線の京釜線を爆走します。 暗闇と時折現れるまばゆい電鉄駅、遠くきらびやかな街の風景、そんな中を激走した列車は、遅れを2分取り戻した21時32分、水原駅に滑り込みます(9番)。水原駅でも数人の乗客がいてビックリ！

21時33分　水原発車

水原では30秒ほどの短い停車時間で乗降。3分遅れで出発します。

首都を目指して

水原を出たセマウル号。引き続きエンジン全開で極限の走りをします。

京釜線を最後の爆走

京釜第1本線の先行列車は遥か先の鷺梁津付近。先行列車に気を取られることなく本線を爆走します。悪天候の冬だからこそ安全・正確に乗客を送り届けるのが鉄道員の使命。3分のビハインドを背負いながらギユン機関士は絶妙のハンドル捌きでスムーズかつ迅速に列車を引っ張ります。

21：52　永登浦駅到着

かくして列車は永登浦に到着。時計の時刻は21時52分、なんと定刻到着です！ 「過密区間ではダイヤに余裕を含ませているのもあるけど、並行ダイヤを組む無窮花号が(遅れにくい)電気機関車になったのも大きいんだよな〜」 ギユン機関士、少々謙遜します。 多くの乗客を降ろして列車は定刻に出発です☆

最後の区間、終点ソウルを目指す

定刻になった列車はさっきの爆走から一転、80km/hほどの速度でゆったりと走り出します。漢江鉄橋(2〜4番)、龍山駅(5,6番)、電鉄南営駅(8番)と通過すればもうすぐ終着駅、ソウル駅です。

ソウル駅接近

列車の前方にきらびやかなソウル駅の巨体が鎮座しています。終着駅、ソウルに帰って来ました。

22時3分　セマウル1028列車　ソウル駅12番線到着

列車はゆっくりとソウル駅12番線に到着。時刻は22時3分。大雪に翻弄された航路でしたが堂々の定時到着！

ギユン機関士、お疲れ様でした〜！

吹雪による遅れにも負けず、大田からの166.3kmを112分で運転したギユン機関士。 「あ〜〜〜今日は疲れた。大変だった」 責任重大のハンドルを握り、定時を守って乗客を無事にソウルまで送り届けたギユン機関士。さすがに疲れがどっと出たようです。同時に先ほどまでの緊張感から一変して安堵の様子。 ギユン機関士、お疲れ様でしたm(__)m

ソウル駅待機中

終着駅ソウルに到着しても機関士さんの乗務は終わりません。これから回送列車としてこの列車を水色の車庫まで連れて帰ります。 (右上)　雪と遅れの死闘を演じた台車。こびりついた雪も回復運転で吹き飛ばされました。 (右下)　到着後すぐさまサボやシートカバーは外されます。

22時14分　回送　D1028列車　ソウル発車

列車は10分ほど停車して、回送列車として水色の車庫を目指します。ソウルから再び相棒の機関士さんが運転。本当のラストスパートです。 (7〜9番)　ソウル駅から10分ほどで水色車両基地の敷地に入ります。

車両事務所に鍵を返却　〜　入庫

車両事務所の庁舎前で一旦停止。本線運転用のマスターキーを返却します。キーの返却後、構内運転となった列車はゆっくりとセマウル号車庫に入庫してゆきます。

車庫に編成を納める

ゆっくりと車庫内に編成を納めてゆきます。隣の線では先行の湖南線セマウル号が整備清掃の真っ最中でした。

22時31分　停止目標到達　セマウル号停止

営業列車のセマウル1028列車がソウルに到着してから30分ほど後、列車は水色車両基地のセマウル車庫に収まりました。 列車が静かに停止した後、一杯にブレーキをかけて、このセマウル動車も一日の仕事を終えます。

ソウル中のセマウル号大集合！

夜のセマウル車庫の風景。韓国各地からソウルに到着した編成が集います。2004年までは龍山にあったセマウル号の車庫も今は水色車両基地がその機能を果たします。 それにしてもPPセマウル号だらけの風景は圧巻！新塗色、旧塗色、現代型、大宇型、韓進型とバラエティーに富んだ車種もまた楽しいです。

セマウル動車を後にする

前照灯を消して、エンジンは掛けたまま整備さんに編成を引き継ぎます。セマウル動車は車内清掃や各所の点検を行った後、明日の午前便列車として多くの乗客を運びます。 2人の機関士さんは乗務事務所に戻り、帰区点呼(8番)を行います。線路状況、車両状況を報告して｢死の航海｣こと今日の乗務は全て終了。2人の機関士さん、本当にお疲れ様でした〜！

京釜セマウルを後にする。

大変ハードな勤務を終えて帰路に着くギユンさん。「今日は大変な一日だったけどこうしてソウルに戻ってきたらほっとするよ。でもやっぱりソウルは寒いね〜^^;;」 KTX-�UやTTX,TEC等の新型長距離電車に話題が集まり、「かつての花形列車」と地味な存在に言われがちなセマウル号。長年韓国鉄道の最上級列車の地位に君臨した伝統の列車、時代の波に負けじと往時のスタイルのまま、今日も多くのプロに支えられ、安全正確な鉄道の信頼性を支えつつ多くの乗客を目的地へと送り届けます。 「大きく快適な椅子に座って時間通りに目的地に着く」そんな当たり前の鉄道の日常を支える舞台裏を垣間見つつ、水色の機関区を後にした… イソウロウ日時 2007年12月 (一部に2007年1月・2006年5月撮影分の画像も使用しています) セマウル1055列車は2008年1月1日のダイヤ改正で時刻変更しています また、全てのセマウル号の食堂車は 2008年10月を以って営業中止となりました

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